【夢の中の落語小話一席】
年越しそば
泥棒見習の辰吉という男がいた。ある夜、街中でも大きな蕎麦屋に泥棒に入る。 親方に教わった通りに、裏口から誰もいない店内に入り、帳場のタンスや仏壇の引き出しと金を仕舞って有りそうなところを物色。まんまと大金をせしめる。
足音を消して、立ち去ろうというその時、厠(かわや)に起きた、当直の女中とばったり。慌てて、辰吉は持ったお金を放り出し、やっとの思いで、逃げ出す。
その年の暮れ、泥棒仲間の交流を兼ねて、忘年会をやることになる。酒を酌み交わしながら、今年の泥棒家業の自慢話が始まる。あの家は、財産家だ。あの家、門構えは立派だが、案外金がない。こっちの家は、戸締りが緩いから、入りやすいぞ。など様々な泥棒情報が飛び交う。
やがて、酒も廻り、互いの自慢話も尽き、お開きになろうというとき、そうだ、年末だし、みんなで年越し蕎麦を食おうという事になった。 そばなら、藪へ行こうといことになる。
しかし、以前その店に泥棒に入ったことのある辰吉は、「はっ!」とそのことを思い出し、
やっぱり、俺はやめとく。 蕎麦屋だけに、面(麺)が割れると困る。
2017.12.2
(皆さん、年の瀬に限らず、戸締りと、泥棒には充分注意しましょう)